自転車のカスタムを進めていく上で<br>最適な金属素材とは

自転車のカスタムを進めていく上で
最適な金属素材とは

金属の特性を把握して適材適所で使いたい

カーボンやチタン、マグネシウムなどそれこそひと昔前は夢のような素材が今では一般的に流通するようになりました。

個人的にはカーボンという言葉を聞くようになったのは1980年代初頭、F1のレーシングチームであるマクラーレンのジョン・バーナードがデザインしたマシンMP4/1のフレームにカーボンハニカムのモノコックが使われているくらいだと思います。

チタンは1990年代初頭でレーシングカーなどに。中頃、自動車のアフターパーツとしてマフラーやエキゾーストマニホールド、ゴルフのドライバーヘッドなどが一般に出始めたくらいだと思います。

マグネシウムという言葉は名車トヨタ2000GTのホイールだったと記憶しているので1970年代かもしれません。

あくまで個人的に記憶していることなので概ね1960年代後期〜2000年に鉄やアルミニウム、ステンレスという一般的な金属素材から新たな素材としてノウハウを蓄積していきながら普及していったのではないかと思います。

特に1990年代は一般にパソコンが普及していった時代でもあります。

まだCADやマシニングセンターなどが普及する前の1980年末から1990年初頭のバブル経済期〜崩壊初期。旋盤やフライスを職人さんが手で操っていた頃、素材にステンレスを指定すると難削材だからとグチられたり、アルミの溶接を依頼したらめんどくさそうな顔をされたことを思い出します。

自動車やオートバイ、そして自転車においても金属素材は切っても切り離せない物です。

しかし素材にはそれぞれ特質というものがありますので、しっかり整理・把握して適材適所に使うことを考えていきたいと思います。

ここは面倒でも特徴をまとめてみます。

金属素材の物質的性質

チタン合金
(64)
ステンレス鋼
(SUS304)
アルミニウム
合金
マグネシウム
合金
普通鋼
01.比重
4.437.92.81.777.86
02.溶融点
(℃)
1540〜16501400〜142763010831530
03.熱伝導率
(W/m・K)
7.517.0159.0385.063.0
04.線膨張係数
(10-6/K)
8.816.025.017.012.0
05.引張強度
(N/㎜2
999588212250315
06.比強度
(引張強度/比重)
225.574.475.7141.240.1
07.比熱
(J/㎏・K)
5855021004385460
08.容積比熱
(J/m3・K)
0.5850.5020.9611.0040.460
09.電気伝導率
(%対Cu)
1.02.440.0100.018.0
10.ヤング率
(Gpa)
113.2199.944.8107.8205.8
※下記参考サイトより独自集計

自転車に使うパーツに絞ると01.比重(重さ)、03.熱伝導率(熱の伝わりやすさ)、06.比強度(強さ)、10.ヤング率(固さ)になるのではないでしょうか。

ダウンヒル(急な下り坂を長時間走る)とか悪路を走るとか、レースという特殊な状況を外して街乗りで考えると03.熱伝導率もそこまで重要じゃないかもしれません。

主要項目のランキング

01.比重(数字小が軽量)

  1. マグネシウム合金
  2. アルミニウム合金
  3. チタン合金

03.熱伝導率(数字小で熱が伝わりにくい)

  1. チタン合金
  2. ステンレス鋼
  3. 普通鋼

06.比強度(数字大で比重当たり強度高)

  1. チタン合金
  2. マグネシウム合金
  3. アルミニウム合金

10.ヤング率(数字大で固い)

  1. 普通鋼
  2. ステンレス鋼
  3. チタン合金

この数字だけを見るとマグネシウム合金が最軽量でかつ強度もあります。アルミニウム合金は軽いのですが一番柔らかいです。どの項目でもベスト3に入るチタン合金がとてもバランスが取れています。

ただここで一般的に自転車のパーツとして使う場合に気を付けなければいけないのが腐食性です。ましてやできるだけノーメンテに近付けたいのであればかなりなプライオリティです。

腐食性

普通鋼、要するに鉄は錆びますので防錆対策が必要となります。一般的に塗装(被膜コーティング)やメッキがわかりやすいでしょう。

では他の金属素材はどうか。

この腐食性が大きく問題になるのはマグネシウム合金です。実用金属の中で最軽量、比強度・比剛性、衝撃吸収性に優れる大きなメリットがあり、レーシングカーのホイールや市販でも自動車やバイクなどでマグネシウム鍛造(通称マグタン)ホイールが売られています。ただしマグネシウムは酸や塩分で腐食しやすく、燃焼しているマグネシウムは水(酸素)と反応し、水は酸素を奪われて生じた水素に引火して最悪の場合爆発という大きな弱点があります。その昔『マグネシウムの加工は恐ろしい』と職人さんが話してたのはそういった(金属加工工場は水や火、熱、ガス、油が多い)理由でもあります。軽量なマグネシウム合金が多く使われているレーシングカーなどの火災で水はもちろん一般に広く普及しているリン酸塩が主成分のABC粉末消火器ではなく、必ず二酸化炭素消火器を使うのはそのためです。

塗装や表面処理で対応してますが、塗装剥げなど素地が露出するような傷は水や酸素と反応して腐食してしまうため相当気を遣わないといけません。この腐食性の問題と加工性の悪さ、コスト面とカーボンの台頭で自転車では普及してないのが実情のようです。

話しは逸れますが自転車ではカーボンホイールが売られています。ではなぜ最先端のF1やレーシングカーでカーボンホイールがないのでしょうか。理由は簡単で『レギュレーション』第12項3(27ページ)によってホイールの素材が「すべてのホイールは均質の金属製材質で造られていなければならない。」と規定されているからで、他のレースカテゴリーでも同じく規定 第11条3(28ページ)によって規定されてます。カーボンは金属ではありません。金属の中で最軽量で高強度となると現在ではマグネシウムということです。

チタン合金、ステンレス合金、アルミニウム合金は一般的に腐食(錆)に強いとされています。

ただステンレス合金は塩分に、アルミニウム合金は酸やアルカリ双方の環境で腐食します。もちろんそれらに対策するための合金がありますが、一般的に出回っていてそれがすぐわかるかというと難しいです。

チタン合金は酸や海水(塩化ナトリウム水溶液)にも安定して強く、比重当たりの強度が高いです。チタンは軽いといわれますが、同じ容積であればアルミニウム合金の方が軽量です。ただ同じ強度を持たせたい場合にチタンは容積を少なくできるので結果軽くなるということです。

では自転車に最適な金属素材はなにか?

不具合があれば即新品へ交換、常時脱着でき専門家のメンテ必須などレースの特殊な環境は別にして。

移動手段や一般的な趣味としての自転車に使われている金属素材の最適解はどれか。

一般的な自転車で一番金属量が多いのはフレーム、ホイールになると思います。フレームについてはアルミ合金かクロモリ、今回のSAVANEのようにカーボンもあります。チタン合金フレームマグネシウム合金フレームも小数ありますが、一般的とは言い難いです。

ホイールは市販でカーボンも売られていますが、だいたいがアルミニウム合金です。

コンポーネントやクランク、ブレーキキャリパーやディスクなどは基本的にメーカーが作った物を選択して装着するので金属素材で選ぶというよりも用途や軽量化を含めた性能で選ぶことでしょう。

となると実際所有者が金属素材を気にして付けられる場所はシャフトかボルト・ナットの類いなのかもしれません。

例えば特性と軽量化を考えてブレーキキャリパーを固定するM6×L20のネジを熱伝導率の小さなチタンボルトに変える・・・

鉄製ボルトとワッシャーで6.7gが4つで26.8g、チタンで3.4gが4つで13.6g。軽量化13.2g。

アマゾンで¥363が4つで¥1,452円。¥1,452÷13.2g=軽量化1gあたり¥110となります。

ブレーキレバーやクランプボルトなどをそこまで強度が必要なくかつ軽量なアルミ合金製に変えたりと(失礼ながら)チマチマしたことの積み重ねになるのでしょう。そのうち中空チタンボルトなんか出てきたりしてと思ったら用途はエア抜き穴ですがありました

自転車に最適な金属素材は強度が必要なところはチタン合金、あまり強度が必要ではないところはアルミニウム合金が私なりの答えとなりそうです。

実際そのようなパーツも売られていますし、やはりズブな素人が考えることですから同じことを考えて実践している先輩がいて当然なんでしょうね。

アルミ合金、ステンレス合金の系統により特徴は以下にあります。

自転車のカスタムで使う<br>アルミニウム合金・ステンレス合金を知る
系統によって特徴が異なる合金をある程度把握しておきたい
recodec.jp

最近よく見掛けるチタン合金

国内でもそうですが、特にAliExpressなどでよく目にする金属素材『チタン』。

純チタンは医療系に使われることが多いようですが、チタン合金は自転車に限らず自動車にもオートバイにのアフターパーツでもよく目にします。

比重がそこそこ軽く、熱が伝わりにくく、比重辺りの強度が高いチタン合金にも多くの種類がありますが、『64チタン』(Ti-6Al-4V:アルミAl 6%、バナジウムV 4%添加)といわれる合金をよく目にします。

64チタンは焼きなますと良好な比強度に溶接性、鍛造割れに対する耐性を持っていて、さらに高い強度を得るための熱処理が可能なため航空宇宙産業でよく用いられることから一般的にも普及してきたといえますが、大きな弱点は冷間成形特性に劣ることです。

冷間成形特性が劣るということはシームレス管(継ぎ目のない管)を製造するのに適していないということになります。

その冷間成形特性を改善したのが最近目にする『Ti-3Al-2.5V』(アルミAl 3%、バナジウムV 2.5%添加)です。

細かいことは割愛しますが純チタンと64チタンの中間的強度で、純チタン比30〜50%高い強度特性、優れた冷間加工性を持っていることから自転車のフレームに使うようなパイプ材を作るのに適してると思っていいです。


参考サイト